私は16年もの間、外資系医療機器メーカーのインハウスデザイナーとして働いていた。
元々、私の最初の上司が「インハウスデザイナーは必要!」と言い出し、私のチームが発足したらしい。
最初は1人だけ採用して、その後もう1人採用し、最後に採用されたのが私だ。
当時からインハウスデザイナーに対する風当たりは社内でも強く「デザインなんて外注でやらせればいい」とか「USのデータをそのまま使えばいい」と、批判を受けながら仕事をしていた。
最初の頃は、製品担当者に言われた通りのデザインでやってた記憶があるけど、1年もしないうちに役割が変わってきた。
「デザイナーが会社にいるって便利」と、製品担当者に思われてきたからだ。
「こういうことってできない?」と、製品担当者から質問されると「なんとかやってみます」と、答えてしまう。
どうすれば製品担当者の希望通りにできるのかを考え、それを形にしていくことが増えていった。
製品担当者も自分の希望通りの物ができてくると、インハウスデザイナーに対する信頼ができてくる。
そうすると、最初の段階から製品担当者と打ち合わせを行い、二人三脚で作り上げていく仕事が増えていく。
ここまでくればインハウスデザイナー冥利に尽きる。
結果として、私がデザインしたものは、今でも業界のバイブルとして扱われているし、私が働いていた会社の販促物は日本一や世界一と評されている。
外部のデザイン会社に頼むと、制限がかかるため、世界一となるまではいかない。
インハウスデザイナーの強みは、自社の製品を際限なく勉強できることや、自社の顧客の情報をいろんな人から教えてもらえることだ。
秘密保持の観点から、外部のデザイナーには教えられないことが多い。
でも、インハウスデザイナーは社員なので、ほぼ制限なく情報を教えてもらえる。
これがインハウスデザイナーの武器だと思う。
ただ、私が働いていた外資系企業は「内部デザイナーではなく外部デザイナーを使う」という考えに切り替えた。
そのため、私が所属していたチームもなくなってしまった。
「時代の流れなのかな」と思っていたけど、三井住友銀行がインハウスデザイナー3名採用した話が本になっているのを読んでみたら「私たちチームが時代を先取りしすぎたのかも」とも思う。
私たちチームを作った上司は、かなり前に違う会社に転職したけど、今でも会うと「絶対にデザイナーは社内にいたほうがいい」と言っている。だから、フリーランスになった私に今でも仕事を依頼してくれるんだけど。
今では、重役会議にデザイナーが同席する時代になったので、やはりデザインは企業にとって大事なんですわよ。
私たちチームがなくなってから「会社の販促物のクオリティが信じられないくらい悪くなった」と聞くので、「属人化よりも標準化を会社は取ったのだから、それはそれで仕方ない」と思う。
私的には、インハウスデザイナーがいる企業は良い会社だと思うけど。